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かげむし堂

音楽と、音楽家と、音楽をめぐる物語について。

「瀬戸内国際芸術祭」に行ってきました感想~ちょっとすごすぎる現代のパトロネージ(2016.8.25-27)

「私的行きたい場所BEST3(国内編)」にかねてよりランクインしていた「瀬戸内国際芸術祭」(2016年夏期)に行ってきました!

 

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(有名なカボチャのアレ)

 

 

直島(本村地区)の小さな民宿を拠点に、2泊3日で直島、豊島、犬島をめぐるコースでした。


横浜トリエンナーレにも、金沢の21世紀美術館にも、ドイツ語圏の現代美術館にも、もちろん東京の現代美術館にも行ったし、折に触れて現代アートは見る機会があったけれど、この直島で見たもの触れたものが、もうとにかくダントツでピンと来た感。

とにかく「考えるな、感じろ」を地で行く感じというか、ポカリスエットみたいに体内にぎゅんぎゅん浸透してくる。そんな強烈な感覚。


ポカリスエットと言ったけれど、まさに「汗を楽しめ」のキャッチコピーの通りで、ベタベタに汗垂らしながら、海岸や山道を自転車こぎこぎした先に

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次々と屋外アートが立ち現われたり

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いきなりこういうどーんとした現代建築の空間に身ごと放り出されて、クラクラしたり。

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建物のなかも、靴を脱がされて大理石のタイルの感触を味わったり(解放された足でモネの睡蓮に歩み寄る心地良さ!)、真っ暗な空間を壁づたいに歩かされたり、天然のひんやりした空気を肌で感じたりと、カラダで感じさせる工夫が色々。

 

島の生活と共存しているところもユニークで、本当に山ほどの事例に出くわしたのですが、たとえば、民家のすぐ隣に屋外作品が置かれていて、

 

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この「コンタクトレンズ」(作品名)の微妙なカーブが、ぼやけた凸面が、歪みが、現実をほんのちょっとナナメに見せてくれる。

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アートは生きるためのインスピレーションであり、知見であり、可能性の糸口なのだ。

……という、しごく月並な、普段なら口にだすのも少々恥ずかしいような言葉が、この島のなかでは、びっくりするほど素直でストレートな感慨として湧き上がってくる。

 

私は島というものに馴染みがなく生きてきたので、その物珍しさも含めての壮大な感動補正かしらん?

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(確かにこんな、アートとは関係ない何気ない風景もタマランカッタ)

 

……とも思いつつ、帰路についたのですが。


行く前は読む暇がなかったこの本をあらためて読み始めて、ああ、そういうことだったのか…!と、あらためて手で膝を打ったのでした。

 

直島 瀬戸内アートの楽園 (とんぼの本)

直島 瀬戸内アートの楽園 (とんぼの本)

 

 

ベネッセホールディングスの元会長であり、今回の瀬戸内国際芸術祭の総合プロデューサーである福武總一郎氏のインタビューを中心に、直島ほか近辺の島々のアートを解説した一冊です。

もちろん「瀬戸内国際芸術祭」の舞台となっている島々が、ベネッセの投資によって成り立っているということは知っていましたが、その関わり方が、思った以上にきちんと「骨」がある。

 

「企業活動の目的は「文化」であり、「経済は文化の僕」であるべきと思います。しかし、現代社会は手段が目的化しているのです。富を創造できるのは、企業活動しかありません。だとすれば、その富の配分の仕方が問題であって、税金として納めるだけでなく、その一部を使って企業自らがいいコミュニティをつくることに貢献してはどうでしょう」(P.9)

 

こういう理念でもって、先代の遺志を継いで直島のアート・プロジェクトに着手したのが1989年。以降、ベネッセハウスミュージアム、家プロジェクト、地中美術館、さらには犬島、豊島へと、手を広げていくわけです。

 

「初めて見た直島は、ほとんどハゲ山同然だった。もともとは漁業で栄えていた島だが、金属の製錬会社から排出される有毒ガスで、島のおおかたの樹木は枯れ果てていたのである。このハゲ山を、いったい、どうしようというのか──現地に立ったそのときでさえ、私はまだ半信半疑だった」
「福武さんは「この島の緑の中にホテルや美術館をつくり、世界一の文化の島にしたい」と考えるようになっていた。ハゲ山を前にして、なんとも壮大なことを考える人だなあ、というのが当時の私の率直な感想だった」
(P.23)

 

直島の多くの建築を手がけた安藤忠雄氏はこう言います。
さまざまなアーティストが、最初は半信半疑でこの島に乗り込み、やがて福武氏の思想や情熱に共鳴し、ミーティングを重ねながら構想を広げていく。……


プロジェクトを始めたのはまさにバブルの時代。都市部にはたくさんの立派な(だけの)ハリボテのホールが増産されていた頃。そんなさなかに、瀬戸内海の小さな島に目をつける、というのは、もう「実業家の勘」以外の何者でもない。
しかも、お金をたっぷり出してアーティストに委ねる、という形のパトロネージではなく、巨額の富と人を動かしてきた慧眼でもって、生活を見つめ、自然を見つめ、アーティストとじかに対話して、一緒にアートを作り上げていく。

ああ、だから、美術館のひとつひとつに、作品のひとつひとつに、全身染み渡るような説得力があるんだ。と、納得してしまうことしきりでした。


あと、こちらのYahooの記事を読んでいて気がついたことですが、

bylines.news.yahoo.co.jp

今でも、瀬戸内国際芸術祭などでは、ハンセン病患者を隔離する病院だった大島が舞台の一つになっていて、それを主題化した作品もあるので、さりげなくダーク・ツーリズムとしても機能するようになっています。

 

これは大島のみならず、すべての島に対していえることなんですよね。(以下、自分のツイート引用)


犬島の精錬所美術館とかまさにそう。1909年に開設された銅の精錬所(近代化産業遺産)を廃墟から蘇らせたミュージアムで、これなんか文字通りニッポンの負の遺産だし、「1970年」という年を日本という国のキーワードとして設定して、同年に切腹した三島由紀夫の居室の家具をぶらさげちゃうなんていうのも福武氏のアイデアらしい。

 

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(廃墟マニアにガチお薦め)

 

パトロンの矜持でもって成立している作品というのは、歴史上にはそれこそ山のようにあるわけですが、現代においてもこういう骨のあるパトロン精神が存在しているのだ、と思うと、非常に感慨深く、また何より、かつて進研ゼミ生だった身として、部活も恋も勉強もあんまり頑張れなかったけどチャレンジ無駄じゃなかったよパパママ!あの費用が地中美術館の大理石タイルのひとかけらになったよ!と、長年の罪が赦されたような気にもなったのでした(なんだこのオチ)。

 

 

最後に、大竹伸朗さんの作品がどれもおもしろかったです。「針工場」(新作)「I♥湯」(銭湯)「はいしゃ」。銭湯は実際に入浴したよ!(゚∀゚)

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(2016.10.10追記)

AKBグループが瀬戸内に「STU48」(瀬戸内48)として進出するらしいですね!

news.livedoor.com

楽しみ。

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