【連載】春秋社PR誌『春秋』2018年1月号「フェルディナント・リース物語」第4話掲載
春秋社さん刊行のPR誌『春秋』にて連載中の「フェルディナント・リース物語」、第4話が2018年1月号(No.595)に掲載されました。
(前回までのあらすじ)ナポレオン戦争下で音楽家として成り上がるには?その答えを北欧~ロシア演奏旅行ツアーに見いだしたリースだったが、折りしもモスクワ入り目前にロシア遠征中のナポレオンと鉢合わせ!しゃーない、こうなったらもうロンドン行くべ。場合によっちゃアメリカにも行くべ。
というわけで成功の地ストックホルムを去り、海を渡ってロンドンに流れ着いたフェルディナント・リース27歳。
すっかり旅ジャンキーと化し、水平線の向こうにアメリカ大陸さえも仰いでいたリース。しかし巷の予想に反して(?)、彼はロンドンで約11年間の定住生活を送ることになります。
せっかく戦争も終わって、安全な旅ができるようになったとたんに定住生活を選んでしまうあまのじゃくなリース。だって、いまや旅よりも、大都会の方がエキサイティングなんだもの。
ロンドン・フィルハーモニック協会の本拠地があったアーガイル・ルームズ。
ちなみに今回のPR誌『春秋』の特集テーマは、『巡り逢う才能 - 音楽家たちの1853年』(ヒュー・マクドナルド著/森内薫訳)の刊行を記念した「1850年代の音楽・文化・社会」。
ブラームス、ワーグナーほかさまざまな音楽家の「1853年」の生きざまを群像劇のように追いかけるとてもユニークな読み物ですが、ちょうど第2章では、ベルリオーズをとりまく1853年のロンドンの音楽事情が描かれています。その30~40年前のロンドンを描いた拙文と読み比べていただくのも一興かと……。
さてロンドンといえば、かつて、ドイツ語圏出身たる彼らが一世を風靡した街。
(ご存知、ゲオルク・フリードリヒ・ヘンデル(1685-1759)とフランツ・ヨーゼフ・ハイドン(1732-1809))。
彼らに次ぐ「3人目」になってやる、という野望を当時のリースが抱いていたとしても
なんら不思議ではありません。
そのハイドンをかつてプロデュースしたカリスマ興行師、
ヨハン・ペーター・ザロモン(1745-1815)は、リースやベートーヴェンと同郷のボン生まれ。
彼の手に導かれて、リースは華々しくロンドン・デビューを果たします。
まあその後いろいろ、いろいろ、いろいろあった末に、リースは、本エピソードのサブタイトルである「よろこびとあきらめ」の心的境地に至るわけですが(詳細は本編をどうぞ)、その象徴として取り上げているのがこちらの作品……『シラーの「あきらめ」の詩による幻想曲 Op.109』。
ぜひ、この「シラーのサントラ」と化している楽譜もご覧いただきたいところ……。
そう、要するにこういうことになっているのです。
私自身、いまロンドン滞在期のリースと同じ年頃なので、彼の人生のなかでいちばん心理的にグッとくるのがこの時代だったりもします。ほんと、いろいろ、いろいろ、いろいろあるよね30代……。
というわけで若干のエモさもこめてお届けする第4話、お楽しみいただけましたら幸いです。
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