かげむし堂

音楽と、音楽家と、音楽をめぐる物語について。

【連載】春秋社PR誌『春秋』2018年2-3月号「フェルディナント・リース物語」第5話掲載

春秋社さん刊行のPR誌『春秋』にて連載中の「フェルディナント・リース物語」、第5話が2018年2-3月号(No.596)に掲載されました。

 

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(前回までのあらすじ)旅の果てに流れ着いた経済都市ロンドンで、音楽家として大成功を遂げたリース。ところが師ベートーヴェンの招聘はかなわず、フィルハーモニック協会内の内紛に足元をすくわれ、失意の中で『シラーの「あきらめ」の詩による幻想曲 Op.109』を書くのであった……

 

つらい日々の中で思い出すのは父なるラインの尊い流れ。
帰ろう、故郷に。愛する妻と3人の子を連れて。
そして楽園の残照に身をゆだね、心安らかに余生を送ろう。
そう決意したリースなのでありましたが……

 

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タダでは帰れないのがリースなのであります。
さよならコンサート(といってしまうと妙に演歌っぽい)で披露したのが、こちらのピアノ協奏曲第7番。
ちなみにリースの全作品の中で私はこのピアノ協奏曲がいちばん好きなのです。ヴィルトゥオーゾ・ピアニストとしての矜持と、クセのある転調と、リース自身が後半生に好んで何度か用いているイ短調からイ長調への「苦悩から歓喜へ」の表現。リースらしさが絶妙なバランス感で溢れくる作品だと思います。

 

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そして、帰ったところでちっとも安らげないのがリースなのであります……
ボン郊外のバート・ゴーデスベルクの風景(1792年頃)。
リースが住んでいた家は、この画の左から2番目の家だといわれており、ここには
現在プレートが飾られています。
ほっとしたのは最初だけ。旅だ都会だと、さんざん刺激的な生活を送ってきた男にとって、
ほっこり田舎暮らしはただただ無為な日々なのでありました。
ていうか、まだ40歳そこそこですし。いくらなんでも引退するには早すぎたってわけで。
ああ、舞台の緊張感が、恋しい。

 

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そんな折、ニーダーライン音楽祭@アーヘンの音楽監督に就任。(写真は再建されたアーヘン劇場)
やっぱり自分のいるべき場所はここだったと確信したリースは……

 

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1827年春、大都会フランクフルトに移住し、人生初のオペラ『盗賊の花嫁』を創作するのでありました。

 
そして早いもので、次回はいよいよ最終話となります!
ベートーヴェンも亡くなり、ショパンやリストらといった次世代の音楽家
続々と台頭する中で、1784年生まれのおっさんたるリースが選んだ道とは……!?

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